下肢静脈瘤プラザ|最新の下肢静脈瘤レーザー治療。|東京都江戸川区の江戸川病院・千葉県市川市のメディカルプラザ市川駅

1. 静脈の血栓と脳梗塞・心筋梗塞

血管の中で血が固まったものを「血栓」と呼びます.血管が血栓で詰まることで起きた病気のことを「血栓症」と呼びます.

ところで,心臓から全身に送り出す血管を「動脈」,全身から心臓に戻ってくる血管を「静脈」と言います.
血栓症,というと,多くの患者さんが,脳梗塞や心筋梗塞を心配されるのですが,これらは動脈が詰まる病気です.

静脈の中の血液は,心臓に戻ってくるのですが,「右心房」と「右心室」という二つの部屋 (「右心系」と呼びます) を通って,肺へ流れていくのです.
心臓から肺に流れていく血管を「肺動脈」と呼びます.肺動脈は徐々に細くなっていくので,血栓が流れて行った場合,そのどこかで留まり,動脈へ流れていくことはないのです.

心臓の中で,「左心房」と「左心室」と呼ばれる部屋 (「左心系」と呼びます) が,動脈に血液を送り出し,脳や冠動脈 (心臓に酸素などを与える動脈です) に流れていきます.
静脈にできた血栓が,動脈に流れていくのは,右心系と左心系の間に穴が開いているなど,他のご病気がある,特殊な状況だけなのです.

塞栓症 (そくせんしょう)
血栓に限らず,何か(「栓子 (せんし)」と呼びます) が血管に詰まってしまう病気を指します.血栓の他に動脈硬化となった動脈の壁や,外傷の後の脂肪,特殊な状況下での空気など,様々な栓子があります.

 
 

2. 静脈の血栓が起こす病気

では,静脈に血栓ができても問題がないのかというと,そうでもありません.
以下,静脈に血栓ができた場合に起きる問題を書きます.

1) 血栓性静脈炎

これは,静脈の中に血の塊が出来て,そこで炎症が起きる病気です.
静脈瘤に合併することが多いです.以前から,血管が膨らんでいるな,と思っていたら,一部が赤くなって,痛くなった,という場合は,血栓性静脈炎であることが多いです.
これは,通常,体の表面の静脈 (「表在静脈」と呼びます) に出来るもので,移動する頻度が低く,対症療法で見ることが多いです.
ただ,皮膚の下の組織 (主に脂肪) の感染症 (蜂窩織炎 (ほうかしきえん)) と間違う場合がありますので,医療機関の受診をお勧めします.外科・整形外科・皮膚科などを受診する方が多いようです.
 
 
2) 深部静脈血栓症

表在静脈に対して,体の奥の方を流れる血管を「深部静脈」と呼びます.
深部静脈に血液の塊が出来る病気が,深部静脈血栓症です.
血液が流れづらい状況,血液が固まりやすい状況,血管の問題が重なると,血栓(血の塊)が出来やすくなると言われています.
この病気は,突然足が腫れることが多いです.

深部静脈血栓症は,次に書く,血栓後症候群や,肺動脈塞栓症などを引き起こします.特に,肺動脈塞栓症は,命にかかわる病気であるため,血液を固まりづらくする治療 (抗血栓療法) を行います.
むくみを改善するために,圧力の高い靴下 (弾性ストッキング) などで足の外側から圧迫することが多いのですが,血栓ができた直後の場合,血栓を移動させてしまうことがあるので,注意が必要です.
 
 
3) 血栓後症候群

深部静脈血栓症のあと,血栓が溶けないで残ると,その部分より遠く (つま先の方向) の静脈から,心臓に向かう血液の流れが悪くなります.
そのため,足がむくんだり,皮膚が硬くなったり・黒ずんだり(うっ滞性皮膚炎),皮膚に穴が開いてしまうこと (潰瘍) があります.
血栓後症候群の結果として,静脈瘤が出来ると,「二次性静脈瘤」と呼ばれ,一般的な静脈瘤(一次性静脈瘤)とは治療が異なります.足がむくむ・皮膚が悪くなる,等の症状は,一次性静脈瘤でも,二次性静脈瘤でもおきる症状です.
 
 
4) 肺動脈 (血栓) 塞栓症

静脈の血栓は肺に流れ着く,と書きましたが,小さい血栓では症状は出ないことも多いのです.
けれども,小さな血栓でも繰り返し流れて行ったり,或いは大きな血栓が一時に流れて行ったりすると,肺がきちんと働かなくなります.
具体的にはいくら呼吸をしても,血液の中に酸素が取り込まれなくなるために,酸素が足りない状態になり,命の危険が出てくるのです.
特に,一度に大量の血栓が流れる(急性肺動脈塞栓症)では,大きな症状が出ることが多いです.一方で,徐々に血栓が流れていく,或いは肺動脈の中で血栓が増えていく場合(慢性肺動脈塞栓症)は,息苦しくなることが多いです(呼吸不全).

エコノミークラス症候群
血液が流れづらい状況,血液が固まりやすい状況,血管の問題が重なると,血栓(血の塊)が出来やすくなると言われています.
長時間にわたり水分を取らずに膝を曲げた状態を持続したときに深部静脈血栓症が起きやすいと言われているため,引き続き起きる肺動脈塞栓症と合わせて「エコノミークラス症候群」と呼ばれ,有名になりました.
けれども,エコノミークラスでの航空機旅行ではない,環境と関連した血栓症も報告されるようになり「ロングフライト血栓症」あるいは「旅行者血栓症」という名称も生まれました.最近では,震災による避難生活の際の危険性が注目されています.
『エコノミークラス症候群』についてさらに詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

 
 

3. 静脈瘤と血栓症

静脈瘤があると血栓が起きやすいですか,という質問もよく受けます.

上の方にも書きましたが,静脈瘤にできた血栓は,そもそも,移動しづらく,移動したとしても肺に流れ着くので,心筋梗塞・脳梗塞など,動脈系の血栓塞栓症を増やすリスクは高くないと思います.
血栓ができることになった背景 (血栓性素因と言って,血液が固まりやすい体質の方や,血栓を起こしやすい状況など),或いは,凝固系 (正常な体の中で血液を固まらせる仕組み) に及ぼす影響を 100% 否定するものではありませんが,もっとリスクを上げる沢山の要因があるのですから,静脈瘤があるから,心筋梗塞や脳梗塞になりやすいですか,と聞かれたときには「あまり心配しなくてよいのではないでしょうか」と答えています.

一方,静脈瘤があると,静脈系の血栓症ができやすいことはよく知られています.
比較的最近のドイツの研究では,静脈瘤のない人では 0.9% の人に深部静脈血栓症があるのに対して,静脈瘤のある人では,5.6% で深部静脈血栓症がありました (注1).
この研究では,以前深部静脈血栓症があると診断されたことのある人,静脈瘤,六か月以内の入院,悪性腫瘍,年齢などが,深部静脈血栓症のリスクを挙げると結論しています.

日本ですと,日本循環器学会の出している「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)」が参考にしやすいと思います.
このガイドラインでは「低リスク」「中リスク」「高リスク」「最高リスク」の四つに分け,対策を推奨しています.
それぞれの患者さんが,どこに分類されるかは「危険因子」によって判断されるのですが,危険因子が一つだけとは限らないので,注意する必要があります.

ガイドライン中では,静脈血栓塞栓症の危険因子を三つの強度に分けています.
【弱い危険因子】肥満 / エストロゲン治療 / 下肢静脈瘤
【中等度の危険因子】高齢 / 長期臥床 / うっ血性心不全 / 呼吸不全 / 悪性疾患 / 中心静脈カテーテル / 癌化学療法 / 重症感染症
【強い危険因子】静脈血栓塞栓症の既往 / 血栓性素因 / 下肢麻痺 / ギプスによる下肢固定

静脈瘤は,確かに,静脈血栓症のリスクを高くするのですが,それ以外の要因も考えて診療を行っているということを,ご理解いただければ幸いです.

注1: Varicose veins are a risk factor for deep venous thrombosis in general practice patients.
Müller-Bühl U, Leutgeb R, Engeser P, Achankeng EN, Szecsenyi J, Laux G. Vasa. 2012 Sep;41(5):360-5